某市職員の引継ノート

後輩に引き継ぎたい事項を記載したものです。

神山智美「補助金返還訴訟に関する一考察 : 補助金の返還プロセスおよび返還金の負担者に関して」

神山智美「補助金返還訴訟に関する一考察 : 補助金の返還プロセスおよび返還金の負担者に関して」,富山大学紀要,富大経済論集62(2),pp.279-324,2016-12,富山大学経済学部

「○3補助金事業が破たんした場合には、だれが負担するにふさわしいのか?」(p.320)が、とても重要な指摘である。

間接補助事業等の場合、国は県や市町村から確実に補助金等相当額の返還を受けることができる一方で、県や市町村は破たん事業者から補助金相当額の返還を受けられない場合が生じ得る。

補助金等交付時に破たんを見込み、補助金相当額を回収可能とするような措置を取っておくべきなのか。検討の余地があるように思われる。

寺田友子「<判例研究>栃木県・エコシティ宇都宮住民訴訟」

寺田友子「<判例研究>栃木県・エコシティ宇都宮住民訴訟」(宇都宮地方裁判所平成28年3月23日判決),桃山学院大学法学会編『桃山法学 = St. Andrew's University law review』,26巻,2017年3月,pp.227-252

県がした国への国庫補助金相当額の返還が違法な支出であるとして、知事に対し、損害賠償を請求するよう提起された住民訴訟に係る宇都宮地裁判決の研究。

地裁では知事への損害賠償請求が認められ、その後、高裁では認められなかったもの。

筆者は、補助金適正化「法22条は間接補助に適用されない、という事実を知事が認識していなければならなかったのか否かが、ポイントである」として、「行政執行の責任者として県知事は、2億の公金支出の根拠となる法律等を十分に理解していなければならない」と考え、「本判決は、知事は支出の法的根拠を十分に検討する機会と時間があったにもかかわらず、検討した事実が認められないことに、過失の根拠を求めているのである。妥当である。」としている。

この点、担当の関東農政局担当者も法22条の適用があると県担当者に説明していたこと等を踏まえれば、知事の責任を求めるのは酷な印象を受け、バイオマス事業と知事との関係性も取り沙汰されていたようなので、その辺の事情も少なからぬ影響があったのではなかろうかと邪推してしまう。

山村恒年「地方行政判例解説 バイオマス事業補助金返還請求事件 栃木県・宇都宮市」

山村恒年「地方行政判例解説 バイオマス事業補助金返還請求事件 栃木県・宇都宮市地方自治判例研究会編『判例地方自治』,2017.7,pp.86-90

国→県への交付過程は、法に基づく行政処分過程である。これに対して、県→市→A社の流れは県・市の交付規則に基づくが、条例による委任規定もないので、行政処分関係ではない。それは民法上の負担付贈与契約関係といえる。原審・本判決とも財産処分の承認が行政行為とするが、それは当たらない。(p.88)

本判決は、他方で、市が市規則に基づき、A社に対する交付決定の取消しを正式な行政行為とする。それは、条例の委任に基づかないので行政行為ではなく、県のした負担付贈与契約の解除(撤回)である。(p.88)

判例を読んでいて非常に気になる点だったので、上記の筆者による(判決における行政処分・行政行為の判断に係る)指摘により、少しすっきりした。

池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』,小学館文庫,2021

前作ゴーストとつながっているので、合わせて読むべき。試作機デモンストレーションの場所「北見沢市」というのは、位置的には「岩見沢市」でそれに「北見市」を合成したものと推測。都市化する岩見沢とそこそこ大規模農地が広がる北見。うまい架空都市。

國井義郎「バイオマス事業補助金の一部返還に関する損害賠償請求住民訴訟控訴事件」

國井義郎「財政法判例研究第24回バイオマス事業補助金の一部返還に関する損害賠償請求住民訴訟控訴事件 東京高裁平成29年1月26日判決(平成28年(行コ)第162号)(判例地方自治431号24頁)」『地方財務』790,2020年4月,ぎょうせい編,pp.212-221 を読んでの感想。

※p.213「原判決の判旨―請求認容」「■一 争点○1国庫補助金相当額の返還の違法性」中「間接補助事業者等が間接補助事業等により取得した財産の処分について制限を課す規定であり、」は、誤りのため削られるべき記載と思われる。

事件の概要

  1. 国・栃木県・宇都宮市・事業者が関わるバイオマス施設補助金訴訟、高裁判決の解説。以下、栃木県を県、宇都宮市を市と略す。

  2. 国庫補助金が国から県に交付され、以下、県から市、市から事業者に交付され、堆肥化施設が建設された。

  3. 堆肥化施設への担保権設定について、国・県・市はこれを承認した。

  4. 事業者の事業がうまくいかず担保不動産競売開始決定がなされたため、事業者は市に、市は県に、県は国に財産処分の承認を申請した。

  5. 財産処分承認は、事業者・市間、市・県間、県・国間にて、それぞれ国庫補助金相当額の納付を条件としてなされた。

  6. 県は、国の求めに応じて国庫補助金相当額を返納したが、市は県に県補助金相当額を、事業者は市に市補助金相当額を返還しなかった。

  7. 県は、市に県補助金相当額の支払を求める訴えを起こしたが棄却された。

  8. 市民オンブズパーソン栃木は、県の国に対する返納が違法な公金の支出であるとして、当時の県知事に損害賠償を請求することを求める住民訴訟を提起した。

※この訴訟のほか、県が国に対して、返還した国庫補助金相当額の返還を求めたものもある。

行政処分性について

補助金適正化法に基づいて補助金交付決定や財産処分の承認がなされた場合には、当該決定や当該承認は行政処分となる。しかし、補助金適正化法に基づかずに補助金交付決定や財産処分の承認がなされたときは行政処分ではなく負担付贈与契約関係において処理される(山村恒年・判自421号88頁)。このように、行政実務においては、一方では、国による補助金交付決定については、補助金適正化法に基づく行政処分と構成し、これに対して担保権行使の制限を附款として付することを容認していた。他方では、自治体による補助金交付決定については、負担付贈与契約と構成し、担保権行使の制限は契約に付された負担と解していた。

筆者は、「条例または規則に基づく補助金交付についても、処分性を認めるべき」と主張している。「要綱」は挙げられていないため、おそらく要綱補助にまで処分性を認めるべきとは考えていないものと推測される。

補助金適正化法に準じた内容の規則を定めている自治体が多いと思うが、これによる交付決定等が行政処分になるのかどうか、今後の判例動向等の注視が必要である。

国から自治体に対する補助は行政処分であり、自治体から自治体・事業者に対する補助は負担付贈与契約である、という点も理解されにくく、救済の手段が異なってくるのも合理性を欠くのではなかろうか。

補助金適正化法22条の関係

補助金適正化法  (財産の処分の制限)
第22条 補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。

この規定は、「補助事業者等」に対する規定であることは明らかであり「間接補助事業者等」にはそのまま適用とはならない。

一方で、補助金等の交付の目的を達成させるという法の求める趣旨は、当然に間接補助事業者等にも及ぶのであって、第22条と同様の一定の制限は必要である。この点、後に県が国を提訴した訴訟にて、財産処分の承認の根拠が第22条ではなく第7条第3項であるする、いわゆる「違法行為の転換」を適用するという解釈が行われた。

 補助金等の交付の条件) 第7条 各省各庁の長は、補助金等の交付の決定をする場合において、法令及び予算で定める補助金等の交付の目的を達成するため必要があるときは、次に掲げる事項につき条件を附するものとする。
(1)~(5) 略
2 略
3 前二項の規定は、これらの規定に定める条件のほか、各省各庁の長が法令及び予算で定める補助金等の交付の目的を達成するため必要な条件を附することを妨げるものではない。
4 補助金等の交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。

所感

  1. 国庫補助金を財源とする間接補助事業を実施する場合、交付決定や変更決定に付された条件について、その条件の根拠規定(第22条なのか第7条第3項なのか、又はその他なのか。)を十分に確認すること。

  2. 間接補助事業者に対する交付決定に付する条件についても、十分に吟味すること。当然ながら、条件の記載漏れなどあってはならない。

  3. なお、自治体が付する条件は、行政処分の附款ではなく、負担付贈与契約に係る条件となるはず。この点、もう少し整理が必要と感ずる。

  4. 間接補助事業で事業がとん挫することは、十分に起こりうる。その場合の補助金の返還義務はどのように誰が負担すべきなのか。競売等の財産処分により返還された金額のみを事業者→市→県→国と返還するのであれば理解しやすいが、事業者から市に対して補助金相当額の一部(又は0円)しか返還されなかった場合でも、市は県に全額返還すべきなのか。そうであれば、市にとって間接補助事業はリスクが大き過ぎ、一切手を出せなくなってしまう。

  5. 補助金適正化法第7条第4項の「公正なもの」がどこまで許容されるのか、事業担当者は注意が必要だろう。

池井戸潤『下町ロケット ガウディ計画』,小学館文庫,2018

行政は、政治を避けては通れないものの、可能な限り政治とは距離を置く。政治ごっこに夢中な職員にならぬよう自戒。

「出世が、結果ではなく目的になってしまった人間ってのは、本来、何が大切なのかわからなくなってしまう」

 

「過ちに気づいたところでスジを通さない奴は、絶対に生き残れない。姑息な了見が通るほど、世の中ってのは甘くないんだよ」

 

「今時誠実さとか、ひたむきさなんていったら古い人間って笑われるかも知れないけど、結局のところ、最後の拠り所はそこしかねえんだよ」

年齢の取扱いについて

これもよく知られたることながら念のため。

文部科学省・学齢関係

以下、文科省のページ「4月1日生まれの児童生徒の学年について」の説明。

学齢児童について、学校教育法第17条第1項では「保護者は、子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、…これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。」とあり、学齢生徒については、同条第2項において「保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、…これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。」とあります。
一方、学校教育法施行規則第59条において、「小学校の学年は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる。」と規定されています(中学校については同第79条において準用。義務教育学校については同第79条の8において準用。特別支援学校については同第135条において準用。)。
それでは、満6歳に達する日とはいつなのでしょうか。年齢の計算については、年齢計算ニ関スル法律民法第143条によりその考え方が示されており、それによれば、人は誕生日の前日が終了する時(午後12時)に年を一つとる(満年齢に達する)、とされています。これを4月1日生まれの子に当てはめると、誕生日の前日である3月31日の終了時(午後12時)に満6歳になることになります。
(略)
よって、4月1日生まれの児童生徒の学年は、翌日の4月2日以降生まれの児童生徒の学年より一つ上、ということになり、一学年は4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの児童生徒までで構成されることになります。

参議院法制局のページ「4月1日生まれの子どもは早生まれ?」もわかりやすい。

生まれた時刻が何時かを問わず、その生まれた日を第1日目として年齢を計算することになっているのです。そうすると、令和2(2020)年4月1日生まれの子どもは、令和8(2026)年3月31日限りをもって満6歳になり、翌日の4月1日から小学校に入学するため、「早生まれ」ということになります。

参議院法制局・選挙権年齢

参議院法制局のページ「選挙権年齢 -選挙期日との関係-」

選挙実務上、選挙期日の翌日に18歳の誕生日を迎える人までが選挙権を有することになるとされています。その背後にある考え方について、選挙権年齢がまだ満20歳以上であった時代のものですが、昭和54年11月22日に言い渡された大阪高等裁判所の選挙権年齢に関する判決が参考になります。同判決においては、「被選挙権に関する公職選挙法10条2項において、年令は選挙の「期日」により算定すると規定されており、この被選挙権に関する規定は選挙権についても類推適用されると解すべきであり(中略)満20年に達する(中略)出生応当日の前日の午後12時を含む同日午前0時以降の全部が右選挙権取得の日に当るものと解することができる。」とされています(上告は後日棄却)。
 では、選挙期日の翌日に18歳の誕生日を迎える者は、仕事や旅行などで選挙の期日に投票を行えない場合、期日前投票を行うことができるでしょうか。期日前投票を行う日を基準にすれば18歳未満ですが、選挙の期日を基準にすれば満18歳ということになります。この点、公職選挙法では、期日前投票については「選挙の当日」ではなく「投票の当日」選挙権を有することが要件とされています(第43条括弧書)。したがって、投票の当日は18歳未満であるため、残念ながら期日前投票を行うことはできないということになります。
 では、不在者投票についてはどうでしょうか。公職選挙法では、不在者投票については原則どおり「選挙の当日」に選挙権を有することが要件とされており、投票用紙を提出する時点では18歳未満であっても、不在者投票を行うことはできるということになります。

厚生労働省・予防接種対象者

令和2年2月4日付け厚生労働省健康局健康課予防接種室事務連絡にて、予防接種対象者の解釈が示されている。

定期の予防接種における対象者の解釈について
 
『●歳に達した時』の考え方
年齢は出生の日から起算され、期間はその末日の終了をもって満了するため、翌年の誕生日の前日(24時)に1歳年をとると考えます。
例えば、令和2年4月1日生まれの人であれば、令和3年3月31日(24時)に1歳に達したと考えます。
 
『●歳に達するまで』の考え方
誕生日の前日(24時)に1歳年をとると考えますので、令和2年4月1日生まれの人であれば、『1歳に達するまで』と言った場合、『令和3年3月31日まで』という意味になります。
*『達するまで』は、『至るまで』、『至った日まで』と同義であり、3 月 31 日は含まれます。
 
『●歳以上』の考え方
誕生日の前日(24 時)に1歳年をとると考えますので、令和2年4月1日生まれの人であれば、『1歳以上から接種可能』と言った場合、『令和3年3月31日から接種可能』という意味になります。
*厳密には24時に1歳年をとるので、3月31日であっても0時から24時に至るまでは、1歳に達していませんが、真夜中の24時に接種を受けられることは通常想定されないため、日中でも接種を受けられるように配慮したものです。
 
『●歳未満』の考え方
誕生日の前日(24時)に1歳年をとると考えますので、令和2年4月1日生まれの人であれば、『1歳未満まで接種可能』と言った場合、『令和3年3月31日まで接種可能』という意味になります。
*『●歳以上』の考え方では、被接種者の都合を考慮して、厳密には接種対象年齢には達していない時間帯も含めて、3月31日の丸一日を接種可能日としました。
一方、『●歳未満』の考え方では、厳密に前日(24時)に1歳年をとると考えて、3月31日24時に至るまでは接種可能とするものです。
(以下略)

政府答弁

年齢計算に係る政府答弁として、次のものが参考になる。

年齢計算に関する法律は、ある者の年齢は、その者の誕生日の前日の午後十二時に加算されるものとしている