某市職員の引継ノート

後輩に引き継ぎたい事項を記載したものです。

補助金交付が行政処分に当たらないとされた判例

東京都が都下市町村に対して交付する三角バケツ配布事業補助金について、「補助金の支出行為そのものは、非継続的な事実行為であつて、それがなされた後にはその取消しを論ずる余地のないもの」であり、「支出行為自体は、地方自治法242条の2第1項2号にいう行政処分に当たらないもの」とされた判例

「都下市町村の三角バケツ配布事業補助金交付申請に対する被告(※東京都)の決定は、両者間の公法上の権利義務関係を優越的立場において一方的に規律するという性格のものではなく、単なる給付の申込みに対する承諾・不承諾の意思表示にとどまるのであつて、実質的にはもちろん、形式的にも行政処分性を有しないものというべきである」とされた。

以下、判例を抜すい。

○判示事項
都下市町村が震災時における初期消火及び飲料水確保のための三角バケツを各家庭に配布するいわゆる三角バケツ配布事業について都知事がした補助金交付決定が、地方自治法242条の2第1項2号所定の行政処分に当たらないとされた事例
(略)
○理由
(略)
1 原告は、地方自治法242条の2第1項2号の規定に基づき、「被告が三角バケツ配布事業補助金として支出した別紙目録記載の支出を取り消す。」との判決を求めるものであるが、補助金の支出行為そのものは、非継続的な事実行為であつて、それがなされた後にはその取消しを論ずる余地のないものである。したがつて、右の支出行為自体は、地方自治法242条の2第1項2号にいう行政処分に当たらないものというべきである。
2 もつとも、右請求は、支出行為の原因となつた補助金交付決定の取消しを求める趣旨を含むものと解し得ないでもないので、右交付決定の法的性質について更に検討することとする。
(略)
(1) 東京都震災予防条例32条は、「(1項)都民は、火気を使用するときは、出火を防止するため常時監視するとともに、地震時の出火に備え、消火器等を配備し、初期消火に努めなければならない。(2項)区市町村は、地域に消火器等を配備することに努めなければならない。(3項)前2項の場合において、知事は、必要な助成をすることができる。」と規定しているところ、東京都は、右規定の趣旨に従い、震災時における各家庭での初期消火態勢を確立し、あわせて飲料水の確保を図るため、昭和四八年度以降、三角バケツ配布事業を推進することとした。三角バケツ配布事業は、東京都の区の全世帯及び市町村の市街化区域内の全世帯を対象として、区及び市町村が当該区域内の各世帯に対し本件三角バケツを配布し、東京都がこれに対し財政上の助成措置を講ずるというものである。そして、東京都は、区に対する右財政上の助成措置として、昭和48年度及び昭和50年度ないし昭和52年度において、財政調整交付金(都と特別区及び特別区相互間の財政調整に関する条例に基づき東京都から区に対して交付されるもの)の算定に当たり、三角バケツ配布事業を算定基礎事項に取り上げ、昭和52年度で全区に対する予算措置を完了した(なお、財政調整交付金はその使途について区を拘束しないため、右事業を実施しなかつた区が若干存する。)。そこで、東京都は、昭和52年度からは市町村に対する右財政上の助成措置を始め、その三角バケツ配布事業に対し補助金を交付することとし、昭和52年度及び昭和53年度の予算に市町村三角バケツ配布事業補助金を計上した。
(2) 東京都総務局長は、右の市町村三角バケツ配布事業補助金の予算執行のため、昭和52年7月14日本件要綱を定めた。本件要綱の内容は、要旨次のとおりである。
ア この要綱は、三角バケツ配布事業に対する補助に関して必要な事項を定め、震災時における初期消火態勢の確立と飲料水の確保を図ることを目的とする(1条)。
イ 知事は、市町村が市街化区域内の各世帯に本件三角バケツを配布する場合において、市町村に対し予算の範囲内でその費用の一部を補助する(2条)。
ウ 市町村長は、補助金の交付を受けようとするときは、所定の様式により知事に申請をし(4条)、知事は、申請の内容を審査し、適当と認めたときは、補助金の交付の決定を行い、所定の様式により申請者に通知する(5条)。
エ 市町村長は、補助事業が完了したとき又は補助金の交付の決定に係る会計年度が終了したときは、所定の様式により実績報告書を知事に提出し(7条)、知事は、右報告書を審査して必要に応じ調査を行い、その成果が補助金の交付の決定の内容及びこれに付した条件に適合すると認めたときは、補助金の額を確定し、所定の様式により申請者に通知し(8条)、補助金を交付する(9条)。
オ 本件補助金の交付に関しては、この要綱に定めるもののほか、東京都補助金等交付規則及び東京都会計事務規則の定めるところによる(10条)。
(3) 右東京都補助金等交付規則は、補助金等の交付の申請、決定その他補助金等に係る予算の執行に関する基本的事項について、要旨次のとおり定めている。
ア 補助金等の交付に際しては、あらかじめ、申請者に所定の事項を記載した申請書を提出させなければならない(5条)。右申請があつたときは、所要事項を調査し、補助金等を交付すべきものと認めたときは、すみやかに交付の決定をしなければならないが(6条1項)、適正な交付を行うため必要があるときは、申請に係る事項につき修正を加えて交付の決定をすることができ(同条2項)、また、交付の目的を達成するため必要があるときは、条件を付するものとする(7条)。
イ 補助事業者等が補助事業等を中止若しくは廃止し又はその内容若しくは経費の配分を変更しようとするときは、あらかじめ、承認を受けさせるものとし(11条)、補助事業等が交付の決定の内容又はこれに付した条件に従つて遂行されていないと認めるときは、補助事業者等に対しこれらに従つて遂行すべきことを命じなければならず(14条1項)、この命令違反に対しては当該補助事業等の一時停止を命ずることができる(同条2項)。
ウ 補助金等の交付の決定をした場合において、その後の事情の変更により特別の必要が生じたときは、補助事業のうちまだ経過していない部分について、その決定の全部若しくは一部の取消し又はその決定の内容若しくはこれに付した条件を変更することができ(10条1項)、更に、補助事業者等が交付の決定の内容又はこれに付した条件に違反したときなど所定の場合には、交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる(18条1項)。これら取消しがなされた場合において、当該取消しに係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、その返還を命じなければならない(19条1項)。
(4) 被告は、右予算の執行として、昭和52年度に四市一町に対し、昭和53年度に五市一町に対し、三角バケツ配布事業の補助金を交付した。
(5) しかしながら、被告は、昭和54年度から、東京都の財政再建のため都財政全般にわたる見直しを行い、本件三角バケツのようなものは本来各個人の責任において家庭に備え置くべきものであるとの考えから、三角バケツ配布事業補助金を予算案から落とし、以後、右補助金は予算に計上されず、実際にも交付されていない。
 右に認定したところに基づいて考えると、本件要綱及びこれを補足する東京都補助金等交付規則によれば、本件補助金の交付は市町村長からの申請とこれに対する知事の交付決定という形式によつて行われ、交付決定の取消変更権も知事に留保されているが、本件要綱及び右交付規則はいずれも東京都の事務執行上の内部的定めにすぎず、相手方を法的に拘束するものではないから、この定めそのものによつて知事の行う補助金の交付決定が行政処分たる性質をもつと解することはできない。また、本件補助金交付の基本となる東京都震災防止条例をみても、都下市町村の三角バケツ配布事業に対し補助金を交付するという施策は、東京都がその有する広範な政策決定権に基づき、震災予防対策の一環として採用したものであつて、同条例32条3項の前記規定も、知事に補助金の交付などの助成措置を行う権能を与えるために設けられたものと解される。これに基づいていかなる助成措置をとるかは、予算の有無、多寡、公益上の必要性の有無、程度等を考慮して知事の政策判断により決すべきもので、同条例が市町村に対する補助金の交付その他の助成措置について市町村にこれを請求する何らかの権利を与え又は知事にこれを義務づけているものとみることは困難である。更にまた、知事が右の助成措置を行い又は行わないこととする場合に、これをいかなる行為形式によつて行うかについても、同条例には何ら特別に規定するところはなく、内部的な事務処理のうえで適当とする手続方法で行えば足りるとされているのである。してみると、都下市町村の三角バケツ配布事業補助金交付申請に対する被告の決定は、両者間の公法上の権利義務関係を優越的立場において一方的に規律するという性格のものではなく、単なる給付の申込みに対する承諾・不承諾の意思表示にとどまるのであつて、実質的にはもちろん、形式的にも行政処分性を有しないものというべきである。
 そうだとすれば、別紙目録記載の支出の原因となつた被告の補助金交付決定も、地方自治法242条の2第1項2号にいう行政処分に当たらないというべきである。
(略)

※一部、号番号をア、イ、ウ……に置き換えた。